「江角くん、一月一日って空いてる?」
国屋から不穏な確認が入ったのは十二月の上旬だった。S県においては曇りないしは雨の日が増えており、本格的な冬の訪れを感じ始める時期である。
「はあ、今のところ空いてますけど……また何か面倒事ですか」
警察官になってからの江角は基本的に年末年始に仕事を入れていた。サービスする家族もおらず、恋人もいない。帰省にも時間がかかるわけではないため、松の内が明けてから休暇を取ることがほとんどだった。
「それはよかった! 一つ、お願いしたい仕事があってね。こういうのなんだけど」
そう言って国屋が差し出した書類にはワードのアート文字で作ったと思しき七色の文字で「新春一番!煩悩千本祓!」と書かれていた。そのあまりの頭の悪さにめまいがして、思わず江角は額を押さえた。
「なんですかこれは」
「文字通り煩悩を祓うんだよ。大晦日の除夜の鐘があちこちの煩悩を祓うのは知っての通りだけど、中にはやっかいなのがいてね。それを捕まえてきて結界を張った場所に放したあとちゃんと浄化作業をするのが僕らの仕事」
国屋の話に江角は始めて祓った煩悩を捕まえるような事態があるのだと知った。正直なところ知りたくはなかったが。
「はあ、まあ、それはわかりましたが」
「で、今までは神祇部の職員が浄化札使って祓ってたんだけど、中にはすばしっこいのがいて毎年苦労してたんだよ。ただ、今年からは江角くんがいるし、お清めしたボールとバットで煩悩をノックしてもらった方が早いんじゃないかと思って声をかけたってわけ。特別手当も出るよ」
野球ボールで祓われる煩悩というのを想像してますます江角の頭は痛んだが、強くこめかみを揉むことでごまかした。仕事があるというのであればやるのみである。
「わかりました。やりますよ」
「よかった! ありがとう! 県営の野球場借りておくから、詳しいことはあとでね」
ひらひらと手を振る国屋を江角は引き留めた。
「ひとつだけ確認なんですけど」
「なに?」
「手当って、ちゃんと給料に加算upiってことでいいんですよね?」
江角の確認に一瞬、国屋は動きを止めたが、すぐに「もちろん」と明るい声で返事をし、部屋を出て行った。その後ろ姿を見ながら江角はつぶやく。
「……絶対あれは雑煮かなんかでごまかそうとしてたな……」