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第二話

 水神の神域で過ごす日々はよく言えば穏やか、悪く言えば退屈だった。ゆっくりしていくといいと言われたものの、数日で海鳥は飽きていた。 することがないと退屈だ、と言った海鳥に世話係の二は書庫を案内してくれたが、残念ながら海鳥は文字を読むことがで…

第一話

 夜も更けた時間に、ふと来訪者の気配を感じて甘霖は目を覚ました。 水神である甘霖が暮らすのは、自分自身の神気で作り上げた領域――神域であり、訪ねてくる者があればすぐに感知できる。「甘霖さま、起きていらっしゃいますか」 部屋の外から侍従である…

3. The silence is like the calm before the storm

 エルヴィスが「しばらく開発に没頭する」と言ってから月が二回満ち欠けした。その間、邪魔にならないように週二~三回ほど生存確認をするにとどめていたオーエンだったが、最近はそれも短く済まされるようになってしまった。正直、暇を持て余している。そん…

2. The beginning of searching the best way

二、 数週間後。 気落ちしていたエルヴィスもすっかり元気を取り戻し、珍しく――ほとんど初めてと言ってもいい――自らオーエンを部屋に招いていた。話したいことがあるから部屋まできてほしい、と言うエルヴィスにオーエンが緊張したのも無理はない。「で…

1. The Person who called DESTINY

一、 オーエン・ムーアの伴侶は変わり者だと言われる。それは彼の伴侶――エルヴィス・サリヴァンが王の従兄弟でありながら、王位継承権を放棄したことに由来するかもしれないし、魔力を持たないにも関わらず、優秀な研究者として宮廷魔術師と呼ばれる地位に…

池の底

その日、部下から志登に訴えられたのは『閉館したはずの旅館から声がするという通報で業務が妨げられている』というものだった。廃屋の探索で気がついたことは。※微ホラー

その日、志登が受けた通報は「不審物を取得したのですが」と繰り返す不可解なものだった。※微ホラー

能面の女

その日、アンダーラインに持ち込まれた依頼は失踪した部下を捜索してほしいというものだった。【住】地区十九番街〈タウ〉に存在する神社まで捜索に来た松本と志登は不可解なものに出会う。※微ホラー

冬の朝、図書室にて 春の夕暮れ、正門を抜けた先で

冬の朝の図書室には二人だけだった。 私の地元にはいわゆる大手の予備校が1校もなく、受験勉強といえば教室か図書室で、寒かったことを覚えている。 今日もどこかでがんばっているすべての受験生へのエールを込めて。誰かと一緒のはずなのに孤独な戦いも時がくれば終わる。その戦いをやりきったすべての人の健闘をたたえたい。