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Case2:とりかえばやの匣

 八月。本来は春木が忙しいだろうこの時期に仕事の依頼などしたくはないと思いながらも江角は何度目かわからない石段踏破に挑んでいた。六月の比ではないほど暑い。じりじりと背中を灼く太陽にはしばらく引っ込んでいてもらいたいものだ。 石段の踊り場には…

煙比べのネオンサイン

創作男女|2025/11/3北海道コミティア22初出(サンプル)|治安が崩れた街を生き抜く治安維持部隊のミツヤと、その懐刀カンナ。冷たく乾いた日々の中で、言葉にできぬ想いを胸に、血と硝煙の間を二人は歩き続ける。荒廃と孤独の果てに灯る、かすかな温もりの物語。

最終話 Good-bye to Brilliant white days -Closing-

六、 「クッソ、やられた。またかよ……!」「しかも前回より性質が悪くなってますね」 悪態をつく志登の横で、冷静に雷山が指摘した。前回は組織を外れる意思表示をしたうえでの単独行動だったが、今回は退職の意思表示は見当たらなかった。しかし、居場所…

第四話 Good-bye to Brilliant white days -Opening-

四、  ――その日のことはきっと忘れられないだろう、と松本は言った。 「最近、動きがきなくさい」「? なんのです?」 ある日の夕方、いつもの通り六条院が隔離されている療養所までやってきた松本はその日あったことを話していた。その中で唐突な六条…

Case1:ハイドランジアの微笑

 「クソあちい……なんだってあいつの家はこんなとこにあんだ」 悪態をつきながら石段を上る。年々暑くなるのが早くなるような気がする、と思いながら、江角泰地《えすみたいち》はカッターシャツの腕をまくった。UPIに所属するようになってか…

序、  ――科学がどれだけ進歩をしても、理屈では説明がつかないことがある。そんな特殊事象が絡む事件・事故を捜査するために僕らは組織された。 ○ 「UPI?」「そう。江角くんを是非に、という声があってね」 地元で…

第三話 Outcry, sorrow and Prey -10 months ago-

三、    ――雨上がりに日が燦燦と降りそそぎ、不快指数が高かった。    毎月、傾斜のついた砂利道を歩く。もう十回目になればこの道にもいい加減慣れてくるはずだが、一歩一歩踏みしめるごとに身体が重たくなった。仕事であれば大したことないと一蹴…

第二話 Who is the monster?

二、 ――その日は夏前の肌寒い雨の日だった。 出勤した久家と徳永を待っていたのは殺人容疑で逮捕された被疑者の取調べだった。日勤のシフトで出勤してすぐに受けるには重たい事件であり、久家はげんなりとした顔をしたが、徳永は涼しい顔で「わかりました…

四、飛揚

 それからふた月が経過し、町は豪商の娘が都市部の軍人に嫁ぐ話でもちきりだった。以前と変わらず『てんぐ堂』を手伝うあさひの耳には客のうわさ話がひっきりなしに入ってくる。「次の大安だってよ」「何がです?」 常連客の男が唐突に言った言葉にあさひは…

三、流転

 川の水が運んだ泥が海に堆積するように、手紙のやり取りは続き、いつしか薫子の持っている桐の文箱には収まりきらないほどになっていた。ほんの一言二言を書き記したやり取りは、雨の日を除いてほぼ毎日続いている。 生まれて初めて異性と交わす手紙がこれ…