冬の夜は夏よりも暗闇が濃く長い。
そんな当たり前のことを思いながら、巡回に出ていた松本はふう、と息を吐いた。子供の体調不良、自らの体調不良、親戚の不幸事……など様々な要因が重なって人員不足となり、日勤からそのまま夕勤の巡回チームの穴埋めをすることになっていた。冬の夜は空気が澄み、余計なにおいや音がしないので、常人の倍はある五感を持つ松本には過ごしやすい季節だった。
「あと一時間か……」
手元の端末で時間を確認すると、残りの勤務時間は一時間を切っていた。本日バディを組んでいる相手は、用を足す、と言って休憩所の中にいた。車の中で待っている松本がぼんやりと端末を眺めていると、端末は着信を告げた。ディスプレイに表示された名前は六条院のものだった。
「何かありました?」
『大きなことはないが、夜勤の隊員たちが何人か出てきたので、少し早めに交代を、と思って連絡をした』
「あ、それはわざわざありがとうございます。休憩取ってたので、休憩後にそのまま隊舎に帰ってよければ帰ります」
『ああ、それでいい。負担をかけたな』
「いえ、たまにはこういう日があってもいいので。隊長こそいいんですか、こんな夜中まで。この間もまた労務に怒られてたでしょ」
『わたしに怒る前に人手を増やせと言い返しておいた』
六条院の返答に松本は声を出して笑った。労務のことを思うと気の毒だが、六条院のいうことも正論だ。
「人手増えるといいのはいいんですが、こういう勤務もたまにはあってほしいと思うのはわがままですかね」
深夜の時間帯に二人で眠たい目をこすりながら帰宅するのも嫌いではなかった。夜更かしをすることに胸が高鳴った時代を思い出すようで。
『いや、その気持ちはわたしにもわかる』
「それならよかったです」
同じようにちょっとした夜の時間を楽しんでくれているのだと思って松本は微笑んだ。安全運転で帰ります、という言葉とともに終話して、松本は満足げに小さく息を吐いた。