Case#9 雷山
あ? 科技研でおっかない話を聞いた? ああ、あそこはその手の話多いから、仕方ないな。俺たちは現場でまあまあの頻度で遭遇するけど、慣れてないときついか。
怪奇現象なあ……。話すときりがないから隊舎での話をしてやるよ。〈アンダーライン〉本部がある建物に浴場があるのは知ってるだろ? お前も使ったことがあるよな? あの風呂場、特に使う人間の階級を制限してないから、隊長たちも使えるんだよ。副隊長になってからも、泥だらけになって夜中に使ったことがあったんだが、浴槽の中に髪が長くて細身の女がいたことがあって……おいおい、そんなにビビるな、違う、その時に浴槽にいたのは六条院隊長だったんだ。俺が見間違えて勝手にビビっただけで、その後、叱られて散々だった。
とまあ冗談はおいといて、本番はここからだ。あの浴槽、基本的には循環湯を消毒しながら使うんだが、週に一度は必ず清掃が入るのは知ってるよな? うん、そうだよな。ただ、清掃は必ず金曜の夕方にすることになってる理由は知ってるか? ああ、やっぱり知られてないか。そりゃそうだ。
金曜の夕方、必ず湯が真っ赤になるんだ。海や川じゃねえんだから、プランクトン大量発生なんて説はない。というかそもそも赤潮みたいなことになる前に衛生検査で引っかかるっつーの。俺も最初に聞いたときは半信半疑だったが、一度この目で見てからは認めざるをえなかった。理由は知らない。ただ、赤い湯は別に変な匂いがするわけではなく、単純に真っ赤な見た目になる。不気味だろ? その見た目ならせめて匂いがあってほしいんだが、逆に無臭なのがな。一応松本副隊長にも確認してもらったんだが、それでも、
――普通の塩素消毒以外の匂いはしないね。
って言われてそれっきりだ。誰かがいたずらで入浴剤を入れたわけでもなく、週に一回必ず湯が赤くなるなんておよそ普通じゃない。原因不明だけど、湯の入れ替えをすれば使えるわけだし、週一回清掃して使い続けるしかねえよな。
ところで、さっきからずっと気になってたんだが、あんた、本当に総務の人間か? 今まで俺はあんたを一度も〈アンダーライン〉本部で見かけた記憶がないんだよ。
――なあ、あんた、一体誰なんだ?
(終わり)