『ただ、一つだけ幸運なのは、第一発見者がそなたたちであることだ。重要参考人が死んでいる以上、その場の捜査をそのまま実施してほしい』
「承知しました」
また連絡をします、と言って松本は通話を終了させた。次の瞬間、今度は櫻井から連絡が来た。
『すみません。マスターキーですが、管理人室にはないようで。管理会社の方が持ってきてくださるそうです』
「所要時間は?」
『二十分ほどだそうです』
「しまった。救急呼ぶのもう少し後でよかったですね」
『……そうですね』
すでに救急のサイレンは近づいているのが、通話の向こうから松本の耳には聞こえていた。
「申し訳ないですが、救急には少し待ってもらいましょう。謝罪しに俺もエントランスに下ります」
『はい。そうしてもらえるとありがたいです』
松本は通話を終了させると、その場から立ちあがった。エレベーターの中のこもった空気を吸う気分にはなれず、先の櫻井と同様に、非常階段を下って行った。