怪奇語り - 3/9

Case#3  志登

 は? この間の旧温泉旅館の調査の報告書なら出したぜ……って、総務課にはアクセス権限ないんだったか? あ? 違う? ああもうあの人、そういうところあるよな。部下のことなんだと思ってんだろうな。
 それでなんだっけ。勤めてから体験した怪奇現象な。事件はたくさんあるけど、それ以外……あ、あったわ。もうさすがに廃車にしたけどな、カーナビが壊れてた自動車があったんだよ。運悪く、その日はその一台しか空いてなくて、俺と当時の相棒がそれを使った。現場急行の指示が出ててナビをセットしようとしたんだが、
 ――目的地まで五年二か月、三日と十時間二分十五秒。
 そればっかりアナウンスするんだよ。そんな所要時間が必要な場所がこのご時世にあるか? どう考えてもおかしいだろ? まあそんなわけで俺たちはナビのセットは諦めて、端末の地図機能で現場まで行った。その時はそれでよかった。ここまで言えばこのあと俺が何を言うか予想がつくだろ?
 その時の相棒は、ちょうどナビがアナウンスした期間の後に死んだ。
 あ、いや、殉職じゃない。あの後すぐ病気が見つかって、闘病したけど五年とちょっとで死んだんだ。自動車のナビはあの後修理に出されて、それ以降は、妙なアナウンスをすることもなかったと聞いてる。ただ、気味は悪いよな。おまけに俺とその相棒以外に聞いた人もいない。俺の記憶違いであってほしいと思ってたんだが、どうにも記憶に残って仕方がねえんだよな。
 あと、もう一つ考えてもしかたねえけど、思ってることがある。あれは相棒の未来を予言してたんじゃなくて、相棒の未来の時間を捻じ曲げたんじゃねえかって。どういう要素が絡んでそうなったかまではわからねえけど、俺が今生きてるのは偶然、あのときの宣告の対象になってないからじゃないかと思う。今あのナビがあったら……いや、考えても仕方がねえことを考えるのはよくないな。やめておく。
 まあでも、総務の方でそういう訴えがあったらよく聞いてやってくれよな。こう、心にいつまでも引っかかるような死に方されるとこっちとしても心苦しいんだよ。
 あ? まだ他のやつの話も集めるのか? あんまり気持ちのいい話は出てこないと思うが……ああ、そういう事例集作っておくのか。確かに教訓として残すのは必要だな。それなら第三部隊に行くといい。俺が関わった案件には大体、あいつが同行してるからな。
(終わり)