Case#4 松本
志登さんの紹介? あの人、ほんと勝手だなあ。あんまり期待に添えるような話はできないと思うけど……俺が入院してたときの話でもいい? あ、いいんだ。
俺が入院してた間、誰もいない部屋からナースコールが聞こえたり、夜間に歩行訓練するような音が聞こえたりして困ったけど、一番困ったのはやっぱりあれかな。俺の部屋の外でずっと何かが落ちていく音がしたことだね。
わかる? ドサッ、って落ちる音まで全部聞こえるんだよ。どういう理屈かわからないんだけど二時間おきにずっと落ちていってね。不謹慎だけど途中から俺も慣れちゃって時報みたいに使ってたけど。……ああ、部屋変わらなかったのか、気になるか。最終的には変わったよ。一回、六条院隊長が見舞いに来てくれて――え、そうだよ、あの人部下の見舞いに行かなさそうなイメージあるの? 逆だよ、どんな隊員でも怪我したら一回は見舞いに行くようにしてるって言ってた。うん、まあ、労災申請の書類書かせるためっていうのもあるけど、そんなのわざわざ隊長が来なくてもいいじゃない? 忙しい合間を縫って来てくれるのはありがたかったよ。
あ、ごめん話が逸れた。そうそう、隊長が来てくれたときに窓の外を見て、
――部屋を変えた方がいい。
ってボソっと言ったんだよね。冗談を言う人じゃないし、顔色もあんまりよくなかったから、俺には見えなかったものまで見えたんじゃないかと思うよ。病院側とどう交渉したのかは知らないけど、次の日には俺の部屋は別のところに変わってた。退院した後に隊長にどうして部屋を変えてくれたのか訊いてみたら、
――あれは……ヒトの形をしていなかった。
って言われて肝が冷えたよ。俺は落ちる音しか聞こえなくて、形までは知らなかったから。あそこでは一体何が落ち続けているんだろうね。
ここだけ聞くと病院の屋上からの自殺者がいたんじゃないかって話になるんだけど、そんな話は一つもなかった。俺たちが調べてないってことは本当にない。世間に公表されていなくても、記録としては残るはずなのにそれすらもなかった。おまけにあの病院の屋上は基本立ち入り禁止なんだよね。多分あれには気づかないふりをしてその場から距離を取るのが正解なんだと思うよ。
まあ気になるなら隊長に直接訊いてみたらいいんじゃないかな。今なら執務室にいるはずだから。大丈夫、想像よりは気さくに話してくれると思うよ。
(終わり)