Case#6 羽根戸
古いご遺骨? あー私が新人を卒業したくらいに来たものですね。大体古い御骨は鑑定が難しいんですけど、あれは比較的やりやすかったです。ご遺骨が納められていた箱に事件名が書いてあったんですね。それで当時関わっただろうOBの方もお呼びしてお知恵を借りました。確か返せるものはご遺族にお返しして、他は通例通り、懇意の寺院に供養していただいたはずです。
他? 科技研に勤めていたらこんな話は日常茶飯ですよ。うーん、私が一番肝を冷やしたのは亡くなったが、事件性が無いか調べてほしいと言われて安置されていたご遺体が息を吹き返したことですかね。お亡くなりになっていなくてよかったのはよかったんですが、本当にあれは怖かったです。リビングデッドの存在はフィクションの世界なら楽しいですけど、現実に現れるのはごめんですよ。
あ、ご遺体といえば思い出した話があります。
私たちはご遺体を解剖することも多いですが、その後、荼毘に付す場までご一緒することがあります。ええ、ご遺族がいらっしゃらないときがほとんどですね。誰も見送りに来ないのはきっと寂しいでしょうから。赤の他人でいいのかどうかはこの際問題にしなくていいでしょう。
それでね、えーと、そう、ご遺体を確認したときはお一人だったんです。でもね、いざ火葬が終わってみると、どう見ても一人分より多い御骨がありました。火葬場の職員さんは大慌てですよね。一応言っておきますが、ご遺体は妊婦ではありませんよ。男性です。だから余計に慌てたのだと思いますよ。
まあ、私たちはなんとなくその増えた御骨は、その男性がずっと大事にされていた奥様の御骨ではないかと思っていましたけどね。奥様の方が先に亡くなられて、その男性も後を追うように亡くなったんです。はい。私たちが解剖を担当した理由もそこにありますね。男性の死因は本当に自殺かを調べてほしい、というものでした。
え? 御骨がどうしてまぎれたか? それは私たちにもわかりません。死は生きている私たちにとって永遠にどういったものかわかりませんよね。この話もきっとそれでいいのではないかと思います。世の中に、今の科学の力でわからないものが残されているというのはある種のロマンを感じませんか? あれ、感じませんか。それは残念。
最初にも言いましたが、この手の話は科技研の中にはごろごろ転がっていますよ。今の時間ならちょうど元岡さんが解剖を終えたところだと思いますので訪ねてみてはいかがですか?
(終わり)